保津川の流れに漕ぎ出し   最も困難な状況で気づいたこと

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保津川の流れに漕ぎ出し 最も困難な状況で気づいたこと

03月22日号

保津川遊船企業組合代表理事 豊田知八

「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する。この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか。新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある」

これは、詩人で童話作家の宮沢賢治の言葉です。

ここ最近、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことにより、社会全体の活気が停滞しています。その様子を見た私の脳裏に浮かんだのが、この言葉でした。

新型コロナウイルスの感染拡大は、私の職業である観光業を直撃しました。訪日外国人の減少に始まり、全国規模の小学校の休校やイベントの中止、国内での出控えも相まって、航空・運輸から観光レジャー、飲食業などは軒並み大きな打撃を受けています。つい数カ月前まで、「観光公害」が深刻な問題になっていた観光地は、嘘のように静かです。

さらに、サプライチェーンといわれる製造から販売までの工程サイクルも寸断され、社会経済に与える影響も深刻になっています。

人と物の流通が停滞することで、ここ数年で構築してきた、さまざまな社会経済の枠組みが崩壊するほどの異常事態です。そして私も、この大きなうねりの中に身を置いています。

これまでの努力や成果が泡と化していく現実の中で気づかされたこと。それは個人の幸せと他者の幸せはつながっており、多くの他者が幸せであることによって、自分の幸せは成り立っているという事実です。

自分の才覚やスキル、努力といったこと以前に、自分と他者が良好につながり、分かち合い、支え合う「幸せ」の循環こそが、何よりも大切であると気づかされます。

これまでさまざまな困難に遭遇してきましたが、今回が最も深刻かもしれません。でも、人生に起こることには、すべて意味があるはずです。困難や逆境に遭遇したときに気づき、学ぶことが、何より心強い杖となります。批判したり、現状を嘆いたりするのではなく、いま、この時を人として成長する機会と認識することが大切です。

ウイルス感染は簡単に国境を越えて拡大します。自国や属する集団だけの救済を願うのではなく、「一れつきょうだい」という意識のもと、勝利や敗北といった生存競争とは対極にある「人たすけたらわがみたすかる」という許容と寛容の心で共に支え合い、寄り添う社会の構築こそが、新しい時代の価値観になると思います。そして奇跡は、その頭上に降り注ぐと信じて。

 

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