文芸連載小説
新太は朝早くに起き出すと、まだ少しひんやりしている太陽の光のなかを速足に歩いていく。豚が飼育されている囲いのそばまでやって来ると、元気よく声をかける。
「おはよう!」
三匹ほどいる豚は知らん顔をして土の上で寝そべっている。新太は柵の外に立ったまま、じっと豚たちを見ている。友だちだと思っているらしい。だが豚のほうは子どもが近くにいると落ち着かない。面倒くさそうに起き上がって、囲いの奥のほうへ移動する。そこへ省吾さんが通りかかる。
「新太、早いな。何をしている?」
「豚を見てるの」
「豚なんか見たってつまらないぞ。それより一緒に来い」
省吾さんは先に立って歩きはじめる。新太はあとから付いていく。やって来たのはネギが植わっている畑だ。
「今朝はこいつを収穫するぞ。おまえも手伝うか?」
省吾さんは板状の鍬を使って畑の土を掘りはじめた。白い根元があらわれたネギをさっそく新太が抜いていく。
「だめだ、だめだ。もっと丁寧に扱ってやらなくちゃ。途中で折れてしまってるじゃないか。これじゃあ売り物にならない」
省吾さんは一人で土を掘り、ネギを抜きはじめた。新太の仕事は、泥の付いたネギを束ねて一カ所に集めることに変更された。二人はしばらく作業をつづけ、ネギは無事に収穫された。新太の顔と服は泥まみれだ。
「こりゃあ、おかあさんに叱られるな。おれと一緒に農園に行ったことは内緒だぞ。ネギはあとで届けてやるから、おまえは手ぶらで帰れ」
毎日、丁寧に見てやることが大切だ、と省吾さんは言う。やさしく見守ってやれば、豚も野菜もすくすく育つ。その点、新太は安心だ。両親や省吾さんやカンや、いろんな人に温かく見守られている。
「そろそろおまえにも豚以外の友だちが必要だな」。歩きながら省吾さんが言った。
「虫も友だちだよ」
省吾さんは新太のほうを振り向いた。
「おまえ、近ごろカンに似てきたなあ。まあ、おれも人より豚や虫のほうが好きだけどな。そのうち豚の世話は新太に任せることにしよう」
子どもはうれしそうな笑みをこぼした。