ハートフルエピソードまんまる なんばなつこ

天理時報で新しく始まった4コマ漫画は、実話を元にしています。ここでは、そのオリジナルストーリーをお届けします。

立教184年(2021年)12月1日号掲載分

夕日を拝む

 瀬上たつさん(八十三歳)は、長年患っていた膝に人工関節を入れる手術をした。たつさんは、小柄でしっかり者だが、耳が遠くなり、人との話の仲間に入りにくかった。それでも四階、六人部屋の患者さん達は、何くれと気を配って仲間に入れて下さった。西窓側の田中さんは、紀伊半島長島漁港近くの人で、大きく真っ赤な太陽が夕焼け空に姿を見せるたびに、
「婆ちゃん、夕日が見えてきたよ」
と、カーテンを開けてくれるのだった。たつさんは、
「まあ、すばらしいなあ。ありがとうございます……」
と、ベッドの上で手を合わせ真剣なお祈りをしていた。夕日が西の山に沈むと、部屋の人達は点灯するのだった。

 杖をついて歩けるようになったある日、田中さんが、
「あれ、婆ちゃん、お日様が見えたよ」
と知らせてくれると、たつさんは、すたすたとベッドから窓の近くへ歩み寄り、
「ありがとうございます。こんなに歩けるようにご守護いただきました。云々……」
と、手を合わせてお祈りしたので、みんなが、
「おばあちゃん、杖、杖を持ってえ」
と、驚く一コマもあったが、その祈るたつさんの姿は、神々しく眩しく見えた。

 私が夕暮れ、教会の庭の手入れをしている時、会長が夕日を眺めながら、
「朝日を拝む人はあるけれど、夕日を拝む人は少ないだろうな。夕日に、一日のご恩にお礼を申し上げることも大切だよ……」
と言った言葉を思い出した。元旦の初日の出を拝む人は多いが、夕日に、一日身上をお借りし、をもたりのみこと様の温みいっさいのご守護をいただいて、結構に過ごさせていただいたご恩に対するお礼を申し上げることを、忘れているというより、そのことを知らずに通っているのではないだろうか。

 たつさんは、
「私は、夜も外に出てお月様を拝ましてもらうんやで。今夜は何日月か見てな。お月様はくにとこたちのみこと様やでな」
と、十全のご守護の理もしっかり心に治めて、目に見える月日に祈り、姿の見えない月日親神様を敬いお慕い申して、真実に信仰を続けるたつさんの祈りの生き方が、私の心を導いてくださる。

(森幸子 元小学校職員 六十七歳 三重県)

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