りん ご
今号の特集は「気づく」。ニュートンは林檎が落ちるのを見て、引力を
発見したといわれている。それは、「月は落ちないのに、なぜ林檎は落ち
るのか」という疑問から始まった。だが、引力そのものに気づいたのは、実はニュートンで
はる
はない。引力の存在については、遥か以前に多くの学者が論じていた。
ニュートンの業績はそれが質量をもつ万物に生じる力であることを、数式として証明した
ことだ。すなわち、「万有引力の法則」に気づいたのがニュートンだった。それまで別々の
分野だった、地上の力学(たとえば林檎の落下)と天体の運動(たとえば月の公転)を同じ
法則の範囲にある現象だと証明したのだ。
ニュートン自身、自分は先賢の知恵の成果に少しつけ加えただけだと語っている。すぐれ
た発見とは、万事こういうことなのかもしれない。長い年月にわたる先人たちの知恵の蓄積
と、自らが絶え間ない努力を繰り返して身につけた経験が基礎となって、新しい発想が脳裏
に浮かぶ。9パーセント自明の事実が、最後の1パーセントの気づきによって、不滅の真理
となって輝き始めるのだ。
本誌第
2
号より前号(第20号)まで、長期間にわたってエッセイを執筆くださった、永世
よねながくに お
けいみょうしゃだつ
棋聖・日本将棋連盟前会長の米長邦雄氏が、昨年末に永眠された。軽妙洒脱かつ背筋が伸
めいふく
びた文章は、多くの読者を魅了した。氏のご冥福をお祈りする次第である。
(あ)
編 集 後 記
表紙=京都・嵯峨野の竹林。
こみち
新連載「本の径路」から
Vol
.21
平成25年(2013年)6月1日発行
編集人
永尾教昭
発行所
天理教道友社
632‐8686 奈良県天理市三島町271
電話0743(62)538 振替090‐7‐10367
印刷所
天理時報社
632‐083 奈良県天理市稲葉町80
Tenrikyo Doyusha
2013
ISBN978-4-8073-0576-6
定価は表紙に表示
http://doyusha.jp