わたくしの時代、今日でいう平安中期、雅楽はそれはそれはとても盛んでした。「詩歌管絃は貴族のたしなみ」と申しまして、特に宮中に生活する者にとって、歌を作ることと雅楽のいずれかの楽器を奏することは"必須科目"でした。そこでわたくしは、物語の情景描写や登場人物の心情を表す小道具として、雅楽を使うことにしたのです。
たとえば、「更衣」という雅楽の歌があります。季節の変わり目の習慣である「更衣」を歌ったものですが、わたくしは物語のなかで別の意味を込めました。それは、男女の衣服交換=男女の愛――。わたくしの時代の方々は、曲名を見ただけで、すぐにこのことにピンと来たものです。
この章では、雅楽にまつわるそれぞれの場面で、わたくしがこの歌舞に何を託したのかをご紹介いたします。
- 【青海波】この世のものとは思えぬ二人舞
- 【更衣】夕霧、内大臣の歌にドキリ!
- 【打毬楽】【落蹲】宮廷の競技彩る「勝負楽」
- 【管絃】女性たちだけの優雅な合奏「女楽」
- 【葛城】源氏と夕霧の音楽談義
- ほか