【しば・すけやす】1935年東京都生まれ。55年宮内庁楽部楽師となり、主に横笛奏者として活動。古典雅楽の演奏のほか、現代雅楽、現代邦楽の作曲・演奏、雅楽廃絶曲の復興などを手がける。84年宮内庁退官。横笛演奏を中心に、さまざまな活動を展開する一方、現代雅楽の可能性を追求するとともに、海外で積極的に雅楽を紹介するなど、高い評価を得ている。現在、伶楽舎音楽監督、日本芸術院会員。2011年文化功労者に選ばれる。
書き出しから私事で恐縮ですが、この本が10年前に出版されていれば、どんなに良かったかと思いました。
“源氏物語千年紀”で盛り上がった2008年ごろ、放送や舞台の依頼で『源氏物語』のシーンに使われている音楽の再現を頼まれました。全く源氏音痴の私は、担当者から渡された光源氏の系譜を見て人名から男性か女性かの判断もできず、また、その複雑怪奇なつながりに愕然としました。
以来、源氏音痴の度合いはさらに増すばかりでした。
このような私に『源氏物語』と雅楽についての書評依頼があり、道友社から本が送られてきました。
堅苦しい内容ではと恐れつつ、巻頭の「はじめに」を読み始めると、そこには天理大学雅楽部の演奏会オープニングの定番〝紫式部のあいさつ〟が記されていて、十二単に着飾った穏やかな語り口調の紫式部の舞台姿が目に浮かびました。
「はじめに」を中ほどまで読み進めると、ページがファッと浮き上がり、折り返しページがあることを知らせてくれました。そのページをめくったところ、見開き2ページにわたって記された『源氏物語』人物系図が可愛らしい現代風のイラスト(細川佳代氏挿画)と共に目に飛び込んで、一瞬にして引き込まれてしまい、また、その簡潔な人物紹介によって、光源氏の系譜がとても身近に感じられました。