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書評・感想

『源氏物語』音楽への手がかりとなる好著

小山利彦 専修大学教授

プロフィール

【こやま・としひこ】1943年山形県生まれ。國學院大學大学院修了。博士(文学)。専門は『源氏物語』『枕草子』、歴史物語をはじめとする王朝文学。殊に、実際に王朝で行われた祭祀や行事などの検証に基づく詳細な研究で注目されている。『源氏物語と風土』(武蔵野書院)、『源氏物語 宮廷行事の展開』(おうふう)など多数の著書・論文を執筆。王朝文化を題材としたCD‐ROM、DVDの制作、テレビ番組出演も。近著に『源氏物語と皇権の風景』(大修館書店)、『絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖』葵・賢木両帖の「平安の大事典」(週刊朝日百科)がある。

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『源氏物語』全五十四帖の物語の風景において、雅楽の管絃、謡物、舞楽の調べが響く場面では、作者・紫式部による重々しい設定を読み取ることができます。本来は天皇のためのものである「御遊(=管絃の遊び)」が光源氏のために用いられているからです。
本著においては、これらの場面の描写が紫式部の語り口で展開されています。その中で、光源氏の一代記としての構成を取りながら、四十一帖「幻」の巻までに描写される歌舞管絃について、分かりやすく読み解いています。

『源氏物語』が書かれた平安中期には、謡物は今様が流行していたのですが、「いづれの御時にか」で始まるこの物語は過去にさかのぼる設定ですから、当時としては古い歌謡に属する催馬楽が物語五十四帖に描かれています。
「梅枝」「竹河」「総角」「東屋」の巻名は、催馬楽の曲名でもあります。舞楽においても、当時の一条天皇の御代をさかのぼる嵯峨・仁明朝、宇多・醍醐朝の史的背景を重視した特徴を有しており、物語の歴史社会的研究に重要なテーマを投げかけています。

 

第一章「源氏物語と雅楽」においては、次のような歌舞管絃を掲げているので、簡単にふれてみましょう。

  • 舞楽「青海波」は「紅葉賀」の帖
  • 舞楽「春鶯囀」「柳花苑」は「花宴」の帖
  • 管絃「王昭君」は「須磨」の帖
  • 管絃「秋風楽」、舞楽「狛桙」、催馬楽「更衣」「安名尊」「桜人」は「乙女」の帖
  • 舞楽「喜春楽」「迦陵頻」「胡蝶」、管絃「皇麞」、催馬楽「安名尊」「青柳」は「胡蝶」の帖
  • 舞楽「打毬楽」「落蹲」は「蛍」の帖
  • 管絃「相府蓮」(想夫恋)と催馬楽「貫河」は「常夏」の帖
  • 催馬楽「梅枝」は「梅枝」の帖
  • 舞楽「賀皇恩」、催馬楽「葦垣」「河口」は「藤裏葉」の帖
  • 舞楽「落蹲」「萬歳楽」「賀皇恩」、多くの管絃、催馬楽「青柳」「席田」は「若菜上」の帖
  • 歌舞「東遊」「神楽」、舞楽「皇麞」「陵王」「落蹲」「太平楽」「喜春楽」、管絃としての女楽、「仙遊霞」、催馬楽「葛城」は「若菜下」の帖
  • 管絃「相府蓮」(想夫恋)「盤渉調調子」は「横笛」の帖
  • 舞楽「陵王」は「御法」の帖
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