文芸連載小説

作/片山恭一  画/リン

第14話
目指せスーパーリッチ

2020年12月13日号

つぎの日、校庭の松の木の下でカンとツツは一つのリンゴを分け合って食べた。

「おとうさんが持たせてくれたんだ。国語の時間に食べなさいって」

ツツはひと口齧ったリンゴをカンに差し出した。

「冷蔵庫に時間割がマグネットでとめてあるの。それを見て今日は国語があるのを知ったんだね。授業を抜け出して、ただぼうっとしているのはもったいないからリンゴを食べなさいって。それって、おかしくない?」

カンはひと口齧ったリンゴをツツに返した。

「おとうさんが言うには、この国は信じられないくらい平和なんだって」。ツツは空を見上げて言った。

「鼻のことで同じ国の人と人が争ったりしないし、授業を抜け出して隠れていても敵に狙われたりしない。それはとても幸せなことなんだから、その幸せをリンゴとともに味わいなさいって」

フウちゃんの父親は小学校の先生だった。あるとき教室で、人間はみんな平等だと言ったら、同じグループの人たちから命を狙われるようになった。家族全員で国を抜け出し、最初はフランスに行った。それからアメリカに渡った。ロサンゼルスという街で太鼓を叩いているときにサユリさんと知り合った。

「アメリカには信じられないくらいのお金持ちがいるんだって」。ツツはリンゴを齧りながら言った。「おとうさんはスーパーリッチって呼んでいるけどね。そういう人たちはアフリカの子どもを助けたり、貧しい若者の教育のためにお金を出したりするの。動物の保護や地球温暖化の問題に熱心な人も多いらしいんだ。だったら、みんながスーパーリッチになればいいと思わない?」

犬はすでにスーパーリッチである。まずすぐれた嗅覚がある。だから警察の捜査に協力したり、空港でスーツケースの隅に隠された麻薬を見つけたりできる。つぎに味覚だ。わたしたちがうまそうに水を飲むのは、たぐいまれなほど味覚が発達しているからである。さらに鋭い聴覚は、人間には聞き取れない高い音までとらえることができる。

つまり、わたしたちが生きている世界は、人間の世界よりもはるかに広くて深い。犬がスーパーリッチであるゆえんだが、人間もわたしたちにならって嗅覚や味覚や聴覚を磨いてはどうだろう。

「アフリカで争いが絶えないのは、みんな貧乏だからだと思うの。長いあいだ植民地だったり、暑くて乾いた土地が多かったり、ツェツェバエがたくさんいたりするから。どうすればいいか、昼も夜もずっと考えたんだ」

たんにツツがお喋りなのか、それともカンには人のお喋りを引き出す才能があるのだろうか。

「あるとき、ふと思いついた、お金がなくてもスーパーリッチになる方法を発明すればいいって」。ツツは半分ほどになったリンゴをカンに手渡した。「おとうさんは太鼓を叩くことで、おかあさんはピアノを弾くことで、きっと自分をスーパーリッチにしているんだと思う。わたしもいつか自分をスーパーリッチにする方法を見つけるつもり」

なるほど。彼女の生き方は犬に近いかもしれない。

相関図