文芸連載小説

作/片山恭一  画/リン

第9話
この惑星の「超」少数派

2020年10月04日号

「アフリカにいたころ、おとうさんの家族は畑でバナナやトウモロコシ、何種類かの穀物を栽培して生活していたんだ」

何度目かに松の木の下で一緒になったとき、ツツはそんな話をした。

「家畜も飼っていたんだって。ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、七面鳥、ハト、ウサギ、野ネズミ。みんな食用。アフリカではペットとして動物を飼うことはないらしいの。ブタも美味しいけど、カバもうまいぞって。むかしはカバまで食べたんだね」

ツツはあきれたように言った。

「だからあんなに身体が大きくなったのかなあ。ところできみ、納豆は好き?」

藪から棒にたずねた。

「おとうさんは苦手なんだ。どうしても食べられないって。納豆が入っていた食器を洗うこともできないんだよ。不思議だなあ。カブトムシは大好きなのに。カブトムシ、食べたことある?」

カンは首を横に振った。ちなみに犬もカブトムシは食べない。「わたしも」とツツは言った。「食べようとも思わない。でしょう?おとうさんが生まれたところでは貴重なビタミンの供給源なんだって。カブトムシ」

それからツツはフウちゃんの国の話をはじめた。その国には二つのグループがあった。高い鼻をもつ人たちと、すわりのいい鼻をもつ人たち。そんな違いもあって、二つのグループは戦争をはじめてしまった。

「おとうさんが小学生のころには、争いはもう手が付けられないほど激しくなっていたんだって。そのせいで家族は家や畑を捨てて、命からがら逃げ出さなければならなかった」

トトが言うには、海の地球全体に占める割合は地表部分の七〇パーセントで、生物が棲息できる空間の九〇パーセントを超えるらしい。陸地をはるかに上まわっている。つまり地球の生き物の大半は海に棲んでいる。しかも、ほとんどがタコ、イカ、クラゲ、イソギンチャク、エビ、カニ、アサリ、ヒトデといった背骨のない動物である。

この惑星では、人も犬も「超」が付くほどの少数派なのだ。少数派のなかの、さらに少数の人たちが鼻の違いをめぐって戦っている。人間はあまり上等な生き物じゃないというのはハハの意見だ。わたしも半分くらい賛成である。

「おとうさんはトーキングドラムの音楽を仕事にしているけど、クラシック音楽は嫌いなんだ。苦手と言ったほうがいいかもしれない。心がざわざわして、いやな気分になるんだって。戦争がはじまると、かならずラジオからクラシック音楽が流れてきたから。子どものころから何度もそういうことがあってトラウマになっているんだね。ママはシューベルトやショパンのピアノ曲が好きで、ときどき聴いているけど、そのたびにおとうさんは、かんべんしてくれよって顔をする」

ハハによれば、人間のオスはメスよりも劣っているらしい。本当だとしたら奇妙なことだ。犬のオスとメスに優劣はない。そんな話をハハがはじめるのは、たいていお酒を飲んでいるときである。するとトトは急いで食器を洗いはじめる。

相関図